1993/10/14
赤桐裕二
ハンガリアンタロックはその名の通り、ハンガリーでプレイされているタロットカードゲームです(タロックとはハンガリー語でタロットのことです)。
タロットカードは78枚のカードで構成されていますが、このゲームでは全部のカードは使わず、そのうちのわずか42枚のカードでプレイされます。
このゲームはほとんどすべてのタロットゲームと同じようにトリックテイキングゲームです。普通はパートナーを組んでプレイするのですが、パートナーは固定していなくて、日本式ナポレオンと同じような方法で毎回決めていきます。
コントラクトがあるだけでなく、花札のような役(やく)があり、その役を予め宣言することもできるなど、かなり複雑なゲームです。しかしながら、私見ではタロットカードゲームの中で最も面白いゲームです。
ルールおよび歴史については、ほぼ全面的にMichael Dummett 氏の研究に基づいています。(ただし、本稿は翻訳ではありません。赤桐が書きおろしたものです。)
タロットは1430年代にイタリアで発明されました。既存のカード(現在でも使われているようなトランプ)を改良するかたちで作られました。基本的には、切札専用のカードをトランプに付け加えたわけです。
タロットゲームは16世紀初頭にはスイスやフランスに広まりました。ドイツ語圏に広まったのは17世紀の初めになってからです。
18世紀の終わり頃に、オーストリアで新しいタロットゲームが発明されました。カードの枚数を54枚に減らすとともに、愚者のカードの扱いを単純化したものです。この新しいゲームはオーストリア=ハンガリー帝国内に広がりました。
42枚のゲームの発明はやはりオーストリアで19世紀の始め頃に行われたと考えられています。現在のオーストリアでは54枚のゲームしかプレイされていませんが、以前には54枚のゲームと42枚のゲームの両方がプレイされていました。ハンガリーのこのゲームはオーストリアで行われていたゲームが発展したものだと考えられます。
現在では、このゲームは、ハンガリーに多数あるタロットゲームの中でも、もっとも普及しています。元々はパスキーウィッツ(Paskievits)と呼ばれていましたが、現在では単にタロック(Tarokk)と呼ばれています。
4人でプレイします。1人ずつ抜けながら5人でプレイするやり方もありますが、それはルールの最後で説明します。
このゲームでは42枚のカードしか使われないのですが、まず、完全な78枚のカードの説明をしましょう。
タロットは普通のトランプに似たカード56枚と、切札専用のカード21枚、および特別のカード1枚から構成されます。
普通のトランプに似た56枚のカードは、やはりスペード、ハート、クラブ、ダイヤモンドの4つのスートからなります。しかし、各スートは絵札が1枚増えて14枚となっています。
各スートのカードを強い順に列挙すると、スペードとクラブでは:
キング,クイーン、カバロ、ジャック、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1です。
キング、クイーン、ジャックは通常のトランプと変わりません。カバロとは騎士のカードで普通馬に乗った男性の絵が描かれています。クイーンとジャックの間の強さを持ちます。
数札はトランプと変わりませんが、1は普通はA(エース)でなく単に1と記され、強さも特に強いわけではありません。
ハートとダイヤモンドでもカードの種類は変わりませんが、数札では数字の小さいものほど強くなります。すなわち:
キング、クイーン、カバロ、ジャック、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10です。
これは、奇妙なだけで全く無意味なルールなのですが、ほとんどすべてのタロットゲームがこれに従います。
ところで、イタリアのタロットや占い用として発売されているタロットなどでは、スペードやハートなどのスートの代りにイタリア系の4つのスートが使われます。普通の4つのスートとの対応で示しておくと:
スペード | ソード(スパーダ、刀剣) |
クラブ | バトン(バストーネ、棍棒) |
ハート | カップ(コッパ、聖盃) |
ダイヤモンド | コイン(デナーロ、貨幣) |
また、フランスのカードでは次のような記号が使われます:
K(キング)の代りに | R(ロワ) |
Q(クイーン)の代りに | D(ダム) |
J(ジャック)の代りに | V(バレ) |
この21枚のカードは切札専用のカードとして作られています。
カードには1から21までの数字がアラビア数字またはローマ数字で書かれています。21が一番強い切札で、数字が小さくなるにつれ弱くなり、1が一番弱い切札となります。
カードには色々な絵が描かれていますが、ゲームとは直接には関係はありません。
タロットの中には何も数字や文字の書かれていないカードが1枚あります。絵は音楽家や道化師が描かれています。
このカードは国により実にさまざまな呼び方をしますが、一般名称としては便宜上、タロット占いの言葉を借りて、「愚者」のカードと呼ぶことにしたいと思います。
愚者のカードは本来は変わった役割をするカードです(いつでも出せるが、常に負ける。ただし、出した愚者のカードは自分に戻ってくる)。しかし、ハンガリアンタロックなどのオーストリアやハンガリーにおける新しいタロットゲームでは、切札の一員となっています。しかも、最強の切札です。
ハンガリアンタロックでは42枚のカードパックを使用します。このパックはハンガリーでは普通のものであり、オーストリアでも製造されています。
しかし、日本では入手困難ですので、通常の78枚のカードから不要なカードを除いてプレイしましょう。
不要なカードは54枚の4つのスートのカードのうち、数札の大部分です。スペードとクラブでは、1から9までの数札を使用しません。またハートとダイヤモンドでは2から10までの数札を使用しません。
改めて、カードとその強さを説明すると、次のようになります。
まず、スペード、ハート、ダイアモンド、クラブの4つのスートがあり、それぞれが5枚のカードで構成されています。
黒のスート(スペード、クラブ)では、カードとそのランクは:
キング(最強)、クイーン、カバロ、ジャック、10(最弱)
赤のスート(ハート、ダイアモンド)では、カードとそのランクは:
キング(最強)、クイーン、カバロ、ジャック、1(最弱)
愚者を含む残りの22枚のカードは切札です。ハンガリアンタロックではこの切札をタロックと呼びます。(ゲーム自体もタロックと呼ばれますし、カード全部もタロックと呼ばれると思われますが、狭い意味で使われるときには、この22枚だけをタロックと呼ぶわけです。)
愚者のカードをスキッツと呼びます。スキッツのカードが最強であり、タロック21がそれに続き、以下数字の順にタロック1(パガット)まで続きます。
スキッツとタロック21とパガットの3枚をオナーと呼びます。
このゲームは、コントラクトブリッジやブラックレディーやナポレオンなどと同じトリックテイキングゲームです。
しかし、コントラクトブリッジなどとは少し異なっていて、プレイではトリックを取ることによって各カードについている点数を獲得することになります。
コントラクトブリッジと同じように、最初にビッドを行ってコントラクトを決めます。このゲームではコントラクトとはカードの全点数の過半数の点数を取ることを宣言する事なのですが、4つの種類があります。ビッドにおいては各プレイヤーがコントラクトを宣言していくことができますが、宣言された中で最も強い種類のコントラクトだけが有効になります。最も強いコントラクトを宣言したプレイヤーをデクレアラーと呼ぶことにします。
このゲームでは取ったカードの点数が直接得点になるわけではなく、コントラクトの種類と、デクレアラーがコントラクトが成功したかどうか(すなわち、過半数の点数を取れたかどうか)が得失点を決めます。
また、それとは別に、取ったカードの組み合わせやカードの取り方により、特別なボーナスを得ることができます。
また、ボーナスをもらうことをあらかじめ宣言することもできます。コントラクトの宣言と区別するために、これを"予告"と呼んでおきます。予告通りにいけばボーナスは更に大きくなりますが、失敗すると失点になります。
その他に、配られた手札による得点(手役)がありますし、コントラクトブリッジのダブルと同じように得失点を倍にするような宣言もできます。
このゲームはパートナーシップゲームですが、コントラクトブリッジのように固定したパートナーではなく、デクレアラーが「XXのカードを持っている人」と言うように指名してパートナーを決めていきます。なお以後の記述では、デクレアラーとそのパートナーをデクレアラー側と呼び、デクレアラーの相手側をディフェンダー側と呼ぶことにします。
カードを配ってから、そのカードを使ったプレイが終了するまでをディールと呼びます。(カードを配るだけの行為もディールと呼ばれますが、文脈により区別してください)。1つのディールは次のように進行します。
1)カードを配ります。各プレイヤーに9枚ずつ、テーブル中央に6枚配ります(テーブル中央のカードをタロンと呼びます)。
2)コントラクトのビッドを行います。最も強いコントラクトをビッドしたプレイヤーがデクレアラーになります。
3)各プレイヤーはタロンのカードの何枚かと手札とを交換します。
4)デクレアラーはパートナーを指定します("ソロ"のコントラクトの時を除く)。
5)ボーナスの"予告"の宣言を行います。
6)プレイを行います。
7)得点の計算を行います。
ディーラーおよび席順は任意のやり方で決めます。1つのディールが終わるとディーラーは反時計回りに右隣のプレイヤーに移っていきます。(ディーラーとはカードを配るプレイヤーのことです。)
ディーラーは左側のプレイヤーにカットしてもらったあと、まず6枚のカードをテーブルの中央にタロンとして配ります。そのあと、各プレイヤーに5枚ずつ配り、次に、各プレイヤーに4枚ずつ配ります。配りかたは、まずディーラーの右隣に配り、反時計回りに配っていきます。
ビッドはカードが配られたあと行われます。つぎのルールに従って行われます:
1)ディーラーの右隣のプレイヤーからビッドを始め、反時計回りに行います。
2)オナーカードを1枚も持っていないプレイヤーはビッドに参加できません。(必ずパスと言わなければなりません。)ただし、最初の3人がパスをした後には、4番目のプレイヤーはオナーを持っていなくてもスリーのビッドができます。ただしこの場合、このディクレアラーはタロンからオナーを引いて来なければ直ちにコントラクト失敗となり、実際のプレイをせずにディールが終わります。この場合デクレアーは1人でプレイしたとみなされます。
3)1度パスをしたプレイヤーは2度とビッドには参加できません。パスをしない限り何度でもビッドを行えます。
4)コントラクトには"スリー"、"ツー"、"ワン"、"ソロ"の4つの種類がありますが、ビッドはそのコントラクトの名前を宣言して行います。
5)今までにパス以外のビッドがあった場合は、今までのビッドより強いコントラクトをビッドしなければなりません。スリーが一番弱いコントラクトで、ツー、ワン、ソロの順に強くなります。
6)ただし、席順が上位のプレイヤーは下位のプレイヤーのビッドに対して"ホールド"を宣言できます。ホールドとは下位のプレイヤーのコントラクトと同じコントラクトをビッドすることですが、そのまま決まれば、ホールドをビッドしたプレイヤーがデクレアラーになります。席順はビッドの順と同じようにディーラーの右隣が最も上位で、以下反時計回りに下がっていき、ディーラーが最も下位となります。
7)ジャンプビッド(最小限以上のビッドを行うこと)には制限があります。「インビテーション」の項で詳しく述べます。
8)1人を除いた他の3人がパスをするか、パスをしていない人の中で席順が最上位のプレイヤーがソロを宣言すれば、コントラクトが決まりビッドが終了します。
9)スリーでコントラクトが決まった場合には、デクレアラーはコントラクトをほかのどれにでも変更することができます。それ以外の場合には、コントラクトを変更することはできません。
10)4人全員がパスをした場合にはこのディールは終了し、ディーラーは次のプレイヤーに移ります。
ビッドのときの約束事として"インビテーション"があります。このゲームのインビテーションは、自分をパートナーにするようにという誘いです。
インビテーションには"タロック19のインビテーション"と"タロック18のインビテーション"と"タロック20のインビテーション"の3種類があります。
コントラクトブリッジなどとは異なり、このインビテーションは完全にルール化されているので、これを無視してビッドを行うとルール違反になります。
手札にスキッツかタロック21のどちらかとタロック19とを持っている場合にできるインビテーションです。インビテーションすることにより、デクレアラーのパートナーになりたいという意志表示になります。
このインビテーションはビッドできる最低のコントラクトより1つ上のコントラクトをすることによって実行します(ジャンプビッド)。
オープニングビッドの場合ならばツーを宣言することになります。それ以外の場合は通常は現在ビッドされているコントラクトより2つ上のコントラクトを宣言することになります。例えばスリーに対してワンというようにです。ただし、ホールドのビッドができるような席順にいる場合はホールドより1つ上のコントラクト、すなわち現在ビッドされているコントラクトより1つ上のコントラクトを宣言することになります。
このインビテーションについて、次のルールがあります。
1)インビテーションをすることができる手札であっても、インビテーションを行わなくてもよい。
2)インビテーションがあっても他のプレイヤーは自由にパスしてもよい。
3)インビテーションの後、インビテーションを行った人以外のプレイヤーがデクレアラーになった時にはインビテーションを受けなくてはいけない。すなわちタロック19を持っている人をパートナーに選ばなければならない。
4)インビテーションを行ったプレイヤーは、タロンからの引き札のあと、タロック19を捨ててはならない。
5)インビテーションを行ったプレイヤーは次のビッドの機会にはパスをしなければならない。
6)インビテーションをおこなう資格のないプレイヤーは、インビテーションとみなされるビッドを行ってはならない。
ただし、次のものはインビテーションとはみなされない:
7)インビテーションのビッドは必ずしも最初のビッドの時にを行わなくてもよい。インビテーションはいつでも行うことができる。
手札にスキッツかタロック21のどちらかとタロック18とを持っている場合にできるインビテーションです。インビテーションすることにより、デクレアラーのパートナーになりたいという意志表示をすることができます。
このインビテーションはビッドできる最低のコントラクトより2つ上のコントラクトをすることによって実行します(ダブルジャンプビッド)。
タロック19のインビテーションと同様のルールが適用されます。
タロック20のインビテーションは、1人のプレイヤーがスリーをビッドし、他の1人のプレイヤーがツーをビッドし、他の2人のプレイヤーがパスをしたときだけ使うことができます(パスをしたプレイヤーの席順は関係ありません)。最初にスリーをビッドしていたプレイヤーがパスをするとタロック20へのインビテーションということになります。
インビテーションをする(パスをする)ためには、スキッツかタロック21のどちらかと、タロック20をもっていなければなりません。
インビテーションを行える手札を持っていなかったり、行いたくなかったりした場合は、パス以外のビッドをしなくてはなりません。
このインビテーションに対しては、これ以上のビッドはありませんが、ツーをビッドしたプレイヤーは必ずタロック20を持っているプレイヤーをパートナーとして指名しなくてはなりません。もちろん、インビテーションを行ったプレイヤーは、タロンからの引き札のあと、タロック20を捨ててはいけません。
タロック19やタロック18のインビテーションにはスキッツかタロック21が必要だと述べてきましたが、その代わりにパガットを持っていても行うことができます。
その場合は、デクレアラーがパートナーを指名した後、インビテーションを行ったプレイヤーは"パガットウルティモ"のボーナスを"予告"しなくてはなりません。
これは非常に危険なインビテーションです。
ビッドのところで述べたようにコントラクトには"スリー"、"ツー"、"ワン"、"ソロ"の4種類があります。この4つのコントラクトは、ゲームポイントの違い以外では、タロンから誰が何枚引くかが次のように違うだけです。
まず、ディクレアラーがタロンから3枚のカードを引きます。他の3人のプレイヤーはディクレアラーの右側のプレイヤーから順に(反時計回りに)1枚ずつタロンからカードを引きます。
まず、ディクレアラーがタロンから2枚のカードを引きます。ディクレアラーの右側のプレイヤーも2枚のカードをタロンから引きます。他の2人のプレイヤーは順に1枚ずつタロンからカードを引きます。
まず、ディクレアラーがタロンから1枚のカードを引きます。次の2人のプレイヤーは2枚のカードをタロンから引きます。最後のプレイヤーは1枚を引きます。
ディクレアラーはタロンからカードを引きません。他の3人のプレイヤーはディクレアラーの右側のプレイヤーから順に2枚ずつタロンからカードを引きます。
各プレイヤーはタロンからカードを引いたあと、引いた枚数だけのカードを捨て札します。
キングやオナー(スキッツ、タロック21,パガット)を捨て札することは禁じられています。
現在普通に行われているルールでは、オナー以外のタロックのカードを捨て札することも禁じられています。ただし、手札の中のキングとタロック以外のカードの枚数が、捨て札の枚数より少ない場合に限り、オナー以外のタロックの最少限の捨て札はできます。(古いルールでは、タロックのカードは自由に捨て札できました。)
ディクレアラーがタロックを捨て札したときには、捨て札したタロックを全員に見せなければなりません。他の3人のプレイヤーがタロックを捨て札した場合には、そのプレイヤーは捨て札したタロックの枚数だけをみんなに宣言する必要があります。
捨て札は(ディクレアラーのタロックの捨て札を除いて)裏向きにしてテーブルに置かれます。ディクレアラーが捨てたカードは、自分の左前に置いて、トリックで勝ったカードと同じに扱います。他の3人のカードは、集められてディーラーの右前に置きます。このカードは、ディクレアラーのパートナーが捨てたカードも含めて、ディフェンダー側のものとなります。
タロンからカードを引いた後に、タロック21かパガットのどちらか1枚だけ持っていて、他のタロックを1枚も持っていないプレイヤーは、ディールを無効にすることを要請できます。
この場合、このディールは得失点なしで終了し、ディーラーは次のプレイヤーに移ります。
タロンとのカードの交換が終わると、ディクレアラーはパートナーを決めるために、タロックの1枚のカードを指定して宣言します。指定するタロックはオナーであってはいけません。指定したカードを持っていたプレイヤーがパートナーになります。しかし彼はその事実を発表する必要はありません。
デクレアラーは自分の持っているカードを指定することもできます。この場合、デクレアラーは自分1人で3人と戦うことになります。また、指定したタロックが捨て札されていた場合も、デクレアラーは1人で戦うことになります。デクレアラーはパートナーがいてもいなくても48点以上のカードの点数をプレイで得なくては勝てません。
デクレアラーがどのカードを指定するかについては制限があります。
1)まず、デクレアラーがインビテーションを受けているときには、インビテーションのカードを指定しなくてはなりません。
2)インビテーションがない場合で、他の3人のプレイヤーの内でタロックを捨て札したプレイヤーがいた場合には、オナー以外の切札(タロック2〜タロック20)のうちから自由に指定するカードを指定しますこの場合、自分の持っているカードを指定することもできます。
3)インビテーションがない場合で、他の3人のプレイヤーのうちでタロックを捨てたプレイヤーがいない場合にも、古いルールでは自由に指定ができました。しかし、現在のルールではタロック20を指定しなければならないという制限があります。もし自分がタロック20を持っている場合には、オナー以外で自分の持っていない最も強いタロックを指定するか、自分自身のタロック20を指定するかを選択できます。自分自身のタロック20を指定した場合には、当然、他のプレイヤーはパートナーが存在しないということにすぐには気がつきません。
プレイはトリックテイキングゲームのルールに従いますが、次の規則があります。
1)最初のリードは常にディーラーの右隣のプレイヤーが行います。
2)プレイは反時計回りに行います。
3)タロックがリードされたときには、タロックを持っていれば、タロックのカードを出さなければいけません。持っていなければ、何を出してもかまいません。
4)タロック以外のカードがリードされたときには、リードされたスートを持っていればそのスートのカードを出さなければなりません。リードされたスートを持っていなくて、タロックを持っていればタロックを出さなければいけません。それ以外の時には何を出してもかまいません。
トリックに勝ったら、勝ったプレイヤーが出されたカードを回収しますが、そのカードはそのプレイヤーの左の方の前に置かれます。パートナーでプレイする場合でも、プレイが終わって点数計算するまでは、各個人の前に置かれます。
トリックテイキングゲームを少なくとも1つ知っている方は、以上の説明で十分だと思いますが、そうでない方のためにより詳しい説明を以下で行います。上記の説明が理解できた方は、読み飛ばしてください。
このゲームではプレイは常に反時計回りに行います。
まず、ディーラーの右隣のプレイヤーが自由に手札の中の1枚のカードを選んでテーブルに出します(これをリードすると呼びます)。
つぎにその右隣のプレイヤーが手札からカードを1枚出します。リードされたカードがタロックであった場合は、手札にタロックがある場合にはタロックを出さねばなりません。ない場合にはどのカードを出してもかまいません。
リードされたカードがそれ以外のスート(マーク)のカードであった場合には、そのスートのカードが手札にあれば、そのスートのカードを出さなければなりません。ない場合にはタロックを出さなければなりません。タロックも持っていない場合にはどのカードを出してもかまいません。
3人目のプレイヤーと4人目のプレイヤーも、リードされたカード(最初に出されたカード)に従って同じようにプレイされます。
こうして4枚のカードが出されると1トリック終わったことになります。出されたカードの中にタロックがある場合には、一番強いタロックを出したプレイヤーがこのトリックに勝ちます。タロックがない場合には、リードされたスートで1番強いカードを出したプレイヤーがこのトリックに勝ちます。
勝ったプレイヤーはこのトリックに出された4枚のカード(この4枚のカードをトリックと呼ぶこともある)を取ったことになり、自分のところに裏向け向けに置きます(手札には加えない)。
トリックに勝ったプレイヤーが次のリードを行い(手札から自由に1枚を出し)、同様にプレイが続きます。
9トリックのプレイを行って、手札を使いきったらプレイは終了です。
カードの点数は以下の通りです。
スキッツ(愚者) |
5点 |
タロック21 |
5点 |
パガット(タロック1) |
5点 |
各キング |
5点 |
各クイーン |
4点 |
各カバロ |
3点 |
各ジャック |
2点 |
それ以外のカード |
1点 |
他のタロットゲームでは3枚1組で点数を補正したりしますが、ハンガリアンタロックではこのようなことはしません。単純に上記の点数の合計が点数になります。
総点数は94点になります。コントラクトを成功させるには48点が必要です。
コントラクトに成功/失敗したときのゲームポイントは次の通りです(なお、カードの点数はコントラクトの成功失敗を判定するときに使うだけで、ゲームポイントとは違いますから注意してください。)
スリー |
1ゲームポイント |
ツー |
2ゲームポイント |
ワン |
3ゲームポイント |
ソロ |
4ゲームポイント |
コントラクトに成功したデクレアラーはこのゲームポイントを敵のパートナーの1人から受け取り、デクレアラーのパートナーもこのゲームポイントを敵のパートナーの1人から受け取ります。(紙に記録する時には、デクレアラー側の2人はそれぞれゲームポイントの点数をプラスの点数として記入し、ディフェンダー側の2人はゲームポイントの点数をマイナスの点数として記入します。)
コントラクトに失敗した場合には、この逆の向きに、ゲームポイントの点数の支払いが行われます。(紙に記録する時には、デクレアラー側の2人はそれぞれゲームポイントの点数をマイナスの点数として記入し、ディフェンダー側の2人はゲームポイントの点数をプラスの点数として記入します。)
デクレアラーが1人でプレイして成功した場合には、デクレアラーはゲームポイントの点数を他の3人それぞれからもらいます。(紙に記録する時には、デクレアラーはゲームポイントの3倍の点数をプラスの点数として記入し、他の3人はゲームポイントの点数をマイナスの点数として記入します。)
デクレアラーが1人でプレイして失敗した場合には、デクレアラーはゲームポイントの点数を他の3人それぞれに支払います。(紙に記録する時には、デクレアラーはゲームポイントの3倍の点数をマイナスの点数として記入し、他の3人はゲームポイントの点数をプラスの点数として記入します。)
プレイの結果、コントラクトの成否には関係なく、デクレアラー側でもディフェンダー側でも次のボーナス得点があります。ただし、これは"予告"がなされなかった場合の点数です。
オールスリー | 1 ゲームポイント |
オールフォー | 1 ゲームポイント |
パガットウルティモ | 5 ゲームポイント |
タロック21の捕獲 | 21 ゲームポイント |
この点数は、デクレアラー側およびディフェンダー側の全員に関係するもので、点数の清算(または記入)のやりかたはゲームポイントの場合とまったく同じように行います。
"オールスリー"のボーナスはデクレアラー側またはディフェンダー側が3枚のオナー全部を取ったときに発生します。
"オールフォー"のボーナスはデクレアラー側またはディフェンダー側が4枚のキング全部を取ったときに発生します。
"パガットウルティモ"のボーナスは、最後のトリックにパガットが出て、そのパガットが勝ったときに、パガットを出した側に発生します。最後のトリックにパガットが出て、そのパガットがパガットを出した側でない側が取った場合には、パガットを出した側の罰点となり、取った側にパガットウルティモと同じだけのボーナス(5ゲームポイント)がつきます。最後のトリックのパガットがパガットを出したプレイヤーのパートナーに取られた場合には、ボーナス得点も罰点もつきません。(罰点がつくというルールを採用している人もいます。)
"タロック21の捕獲"のボーナスは、相手側の出したタロック21をスキッツで取ったときに発生します。
これらのボーナス得点以外に"ボラット"に対する特別な得点もあります。ボラットとはデクレアラー側が全トリックを取ることです。ボラットの時には通常のゲームポイントの代わりに、その3倍の得点を得ることができます。
ボラットの得点と今まで説明したボーナス得点は別々に計算します(その結果、ボラットの時にはボラットの得点以外にオールスリーの得点も自動的に得られます)。しかし、例外として、ボラットのときにはオールフォーの得点を得ることはできません。(ただし、オールフォーの"予告"をしているときには、点数がもらえます。これについては後述します。)
ボラットの得点に似たものとして、"ダブルゲーム"の得点があります。ダブルゲームは多くのプレイヤーに採用されているルールですが、このルールを採用しないグループもあります。ダブルゲームの得点はデクレアラーの側がカードの点数で71点以上を得た場合に通常のゲームポイントの代わりに得られる得点で、通常のゲームポイントの2倍です。
ダブルゲームの場合には、オールフォーの得点も含め、ボーナス得点は別々に計算して得点することができます。
予告などを行う宣言は、デクレアラーがパートナーを指定したあとすぐに行います。(説明の都合上、記述の順序がプレイの順序とは異なっています。)
この宣言はデクレアラーから始まり、反時計回りに行われます。プレイヤーは自分の番の時にいくつの宣言を行ってもかまいませし、パスをすることもできます。宣言は3人続けてパスが行われるまで、何回でも行われます。一度パスをしたプレイヤーも再び宣言に加わることができます。
宣言には予告、手役の発表、コントラの3種類がありますが、どの宣言でも行うことができます。
宣言は宣言を行ったプレイヤーだけでなく、パートナーも共同責任となり、同じ得点を得たり失ったりします。(手役の場合を除く)。
予告は今まで述べたボーナス得点の条件を満たすことを予告して、ボーナス得点を2倍にする宣言です。すなわち、オールスリー、オールフォー、パガットウルティモ、タロック21の捕獲、ボラット、およびダブルゲームのうちの何かを予告します。
予告を行うのに手持ちのカードの制約はありません。例えば、パガットを持っていなくてもパガットウルティモを予告できます。
ディフェンダー側のプレイヤーが"予告"を行えるのは、自分または他のプレイヤーの宣言によって、自分がディフェンダーであることが明らかになった場合だけです。("コントラ"の宣言などがあるとそのプレイヤーの帰属が明らかになります。)例えば自分で"ゲームに対するコントラ"を宣言した後であれば、"パガットウルティモ"などの予告を行うことができます。(同じ番に行うことも可能です)。
デクレアラー側のプレイヤーはいつでも予告を行えますが、予告を行えるという事実によって、デクレアラー側であることが明らかになります。
予告して、その予告が成功しなかった場合は、通常のボーナス得点の2倍が罰点になります(ゲームポイントのときと同じようにして、相手側がそれだけ得点します)。
したがって、パガットウルティモの場合には、次のときいずれも失敗となり、10点の罰点となります:
なお、パガットウルティモの予告があったとき、予告したプレイヤーかそのパートナーがパガットを持っていたときには、パガットを持っているプレイヤーは、可能な限りパガットを最終トリックまで出さないで持っていなければなりません。
ボラットが予告された場合には、全トリック取らなければコントラクトは成功したことになりません。成功した場合も失敗した場合も通常のコントラクトの6倍の点数が動きます。
ボラットの予告があった場合も、他のボーナス得点は予告があってもなくても独立して計算します。ただし例外として、ボラットの予告があり成功した場合は、予告なしのオールフォーは得点として認められません。
ダブルゲームが予告された場合には、71点以上取らなければコントラクトは成功したことになりません。成功した場合も失敗した場合も通常のコントラクトの4倍の点数が動きます。ダブルゲームを予告した側が全トリック取っても、得点には影響しません。
ダブルゲームを予告した側が、その後の宣言でボラットを予告したときは、ダブルゲームの宣言は無効になります。
ダブルゲームの予告があった場合も、他のボーナス得点は予告があってもなくても独立して計算します。(ただし、予告しないボラットができた場合は、前述のとおり得点になりません)。
"エイトタロック"と"ナインタロック"の2種類があります。エイトタロックは捨て札した後に8枚のタロックを持っている場合で、1ゲームポイントです。ナインタロックは捨て札した後に9枚のタロックを持っている場合で、2ゲームポイントです。
手役の公表があると、直ちに、自分のパートナーを含めた他の3人のプレイヤーから上記のゲームポイントを得ます。(紙に記録する場合には、上記ゲームポイントの3倍が手役のあるプレイヤーのプラスの得点となり、他の3人は上記ゲームポイントだけマイナスの得点となります。)
手役を発表したプレイヤーはタロックの札を見せたり種類を知らせたりする必要はありません。
手役を発表するかどうかはプレイヤーの自由です。ただし、9枚のタロックを持っているプレイヤーがエイトタロックと発表することはできません。
手役があるのに発表しない場合には、"パガットウルティモ"を宣言したり、"パガットウルティモにたいするコントラ"を宣言したりすることはできません。
コントラはコントラクトブリッジのダブルと同じようなものです。
宣言を行っているときにディフェンダー側のプレイヤーがコントラクトは失敗すると思ったら、"ゲームに対するコントラ"を宣言することができます。これを行うと、このプレイヤーがディフェンダー側だということが明らかになります。この宣言があると、コントラクトのゲームポイントは成功しても失敗しても2倍になります。
これに対してデクレアラー側のプレイヤーは、"ゲームにたいするリコントラ"を宣言して、ゲームポイントを4倍にすることができます。この場合もデクレアラーのパートナーがこの宣言を行うと、彼がデクレアラー側であるということは明らかになってしまいます。
リコントラに対してディフェンダー側は"スブコントラ"を宣してゲームポイントを8倍にすることができます。
スブコントラに対してデクレアラー側は"ヒルスコントラ"を宣してゲームポイントを16倍にすることができます。
ヒルスコントラに対してディフェンダー側は"モルドコントラ"を宣してゲームポイントを32倍にすることができます。(これで終わりです。)
同様に、相手側が宣言した予告に対してもコントラを宣言することができます。例えば"オールスリーに対するコントラ"というふうにです。これに対してもリコントラ、スブコントラ、ヒルスコントラ、モルドコントラを宣言することができます。
デクレアラーがパス以外のビッドを行った唯一のプレイヤーであり、タロンから引いた後もオナーが1枚しかない場合には、プレイを行わないで、降伏をすることができます。
降伏を行ったプレイヤーはコントラクトのゲームポイントの2倍の点数を、他の3人のプレイヤーそれぞれに支払わなければなりません。
降伏を行うのは、デクレアラーのオナーがタロック21で、ディフェンダーに取られる可能性が大きいと判断した場合などです。
誰かがゲームを終了したい場合には、ディールが終わるまでに、"スキッツがディーラーになって一周したら終わり"と宣言します。
ゲームはこの回にスキッツを配られたプレイヤーが次にディーラーになった後、残り3人がすべてディーラーを行ってから、終了します。
その回のディーラーがスキッツを配られていたらそのディールを含めてあと8ディールすることになります。
終了したら、紙に得点を記録している場合には、単純に各ディールの点数を合計してそれがゲームの点数となります。
5人でこのゲームを行うときには、ディーラーがプレイに参加しません。
4人ゲームとは次の点が違います:
1)ビッドを最初に行ったり、最初のリードを行ったりするのはディーラーの右のプレイヤーです。
2)ディーラーはタロンを引くときのカードも各プレイヤーに手渡しますが、このときカードの中身を見ます(他のプレイヤーには見られないようにします)。配ったカードにオナーカードが含まれていたときには、ディールが終了した後に、カードを手渡したプレイヤーから点数をもらいます。スキッツは3点、タロック21は2点、パガットは1点です。
3)ディーラーはタロンのカードを手渡したあと、デクレアラー以外の捨て札を集めます。この捨て札を見て、その中にタロックがあるかどうか、あれば何枚あるかを全員に伝えます。タロックを捨てたプレイヤーの自己申告は必要なくなります(デクレアラーを除く)。
Twelve Tarot Games (Michael Dummett, 1980)
The Game of Tarot (Michael Dummett, 1980)
A History of Card Games (David Parlett, 1990)
"Twelve Tarot Games"と"The Game of Tarot"の2冊の本を貸してくださっている草場純さんに感謝いたします。