1995/1/6 赤桐裕二
プリファランスはオーストリアなどでもプレイされていますが、ロシアで非常に盛んにプレイされています。約200年間にわたってロシアの知識層のナショナルゲームとしてプレイされてきたそうです。
ここでは、ロシアのルールを説明します。ただしロシアにおいてもさまざまなルールが存在するということあり、このルールはその1つにすぎません。
ルールはデビット・パーレット(David Parlett)氏の"Teach Youself Card Games"いう著書に従います。ただし、このルール説明は翻訳やそのままの引き写しではありません。
ユニークで複雑な得点システムがこのルールの特徴なので、まずそこから説明を始めます。
このゲームでは、得点は通常これから述べるようなスコアシートに記入します。
スコアシートの紙は何でもよいのですが、理解しやすいように白い正方形の紙をイメージしてください。このゲームは3人ゲームですが、交代に1人ずつ休むかたちで4人でプレイすることが多いので、4人用のスコアシートを考えます。
正方形の頂点を結んで、対角線上に2つ線を引きます。正方形の辺と対角線で囲まれた3角形が4つできますが、これがそれぞれのプレイヤーのスコアシートになります。各プレイヤーは正方形の辺を下にして、スコアを書き込んでいくことになります。ただし、ハサミで自分のスコアシート分を切り取るわけではありません。
スコアシートの中央の対角線の交点上に、10またはその倍数の数字を丸で囲って書いておきます。これが、このゲームにおけるターゲットスコアになります。プレイヤー全員の「プール」(後述)の点数がターゲットスコアに到達したら、ゲーム終了となります。
各プレイヤーのスコアシートの中央よりやや上とやや下の部分に1本ずつ、2本の水平線を引きます。また一番下の部分、つまり正方形の辺の近くにプレイヤーの名前を記入します。
上の水平線の上部には、「ホール」と呼ばれる点数を横に並べて記入します。ホールの点数は、コントラクトを失敗したときに発生するペナルティーの点数です。
下の水平線の上部には、「プール」と呼ばれる点数を横に並べて記入します。プールの点数は、コントラクトが成功したときに、ビッドしたコントラクトに応じて得点する点数です。
下の水平線の下部には、「サイド」と呼ばれる点数を記入します。サイドの点数は上記以外のボーナスやペナルティーなのですが、必ずあるプレイヤーが別のあるプレイヤーに支払うべき点数として発生します。
サイドの点数には、左の部分と、中央の部分と、右の部分の3つの記入箇所があります。これはそれぞれ左のプレイヤー、向かい側のプレイヤー、右のプレイヤーから受け取るべき点数を表しています。
点数の記入は、累計点をコンマで区切って次々に書いていく形式です。例えば、まず6点を得点、次に2点を得点、次に4点を得点したような場合、"6,8,12"と記入します。
まず、自分のスコアシート上の3つの箇所の点数を合計します。これが受け取ることのできる点数の合計です。
次に、他のプレイヤーのスコアシートを見て、自分に対するサイドの点数を見つけ、これを合計します。これが支払うべき点数の合計です。
受け取るべき点数から、支払うべき点数を引いたものがサイドの最終点数となります。
まず、全員のスコアシートから、ホールの点数を合計します。これを10倍してから人数で割ります。小数点以下の端数は切り捨てます。つまり、ホールの点数の10倍の平均点を求めます。
自分のスコアの10倍から、この10倍の平均点を引きます。
ホールの点数はペナルティーなので、プラスとマイナスを逆にします。
サイドの点数とホールの点数を加えたものが、最終得点になります。
プールの点数は最終得点の計算には使用しません。
プレイヤーの最終得点の合計はほとんど0になるはずですが、平均点を求める時の切り捨てによってマイナス1かマイナス2になることがあります。精算をするときにはこの点数(お金?)が余るので、プレイヤーの合意によりカードを引いて、誰がもらうかを決めればよいでしょう(とパーレットは書いています)。
(この項は赤桐の分析によるものです。間違っていたら御指摘ください。)
サイドの点数は、そのまま他のプレイヤーから受け取るべき点数をあらわしています。従って、点数はそのままの価値をもちます。
ただし、自分のスコアシートに記入されたサイドの点数だけでなく、他のプレイヤーのスコアシートにおける自分に関するサイドの点数も同じだけのマイナスの価値があることも忘れてはなりません。
例えば、自分だけに10点のホールの点数がある場合には、4人プレイの場合、10倍の平均点は25点となり。最終点数はマイナス75点となります。
このように、4人プレイの場合には、表示点数のマイナス7.5倍の価値になります。3人プレイの場合には、同様に考えて、表示点数のマイナス6.7倍の価値となります。
プールの点数は最終得点の計算には含まれませんが、コントラクトの達成という重要な得点がスコアに関係しないわけはありません。実は、次のようなルールがあります。
*ターゲットスコアを達成したプレイヤーは、ターゲットスコア以上に取ったプールの点数を自分のスコアシートには書き込まず、他のプレイヤーに与えます。もらったプレイヤーは自分のスコアシートのプールの欄にそれを書き込みます。与える相手のプレイヤーはターゲットスコア未達成のプレイヤーなら誰でもかまいません(誰に与えても結果は変わらないと思います)。
*プールの点数を与えた相手から、書き込んだ点数の10倍のサイドの点数をもらいます。(つまり、自分のスコアシートのサイドの所に、その点数に記入します。)
これを、「アメリカの援助」と呼ぶそうです。
したがって、誰かにこの点数を与えてサイドの点数を得る意味からも、あるいはそれを防ぐ意味からも、サイドの点数の10倍の価値があることになります。
ホール、プール、サイドという言葉は、デビットパーレットによるロシア語から英語への意訳です。
原語とその意味は次の通り:
3人または4人。パーレットの著書には4人プレイをどうするかの明確な説明はないのですが、おそらくスカートと同じように、ディーラーがそのディールのプレイを休むのでしょう。
通常のトランプから各スートの2〜6のカードを除いた32枚を使用します。
強さは各スート共に、(強い)A、K、Q、J、10、9、8、7(弱い)
最初のディーラーは、カードをカットして最も強いカードを引いたプレイヤーがなります。同位カードは引き直し。
ディーラーはディールごとに左隣のプレイヤーに交代します。ただし、後述するパスアウトのときの「ラスパシ」のプレイのあとや、「ミゼール」のプレイのあとには、ディーラーは交替しません。
ディーラーは、ディーラーの左隣から時計回りに2枚ずつ5回カードを配ります。残りの2枚のカードは、テーブルにタロンとして置きます。
[ビッド}
ビッドの種類とその強さは次の通りです
6S<6C<6D<6H<7S<7C<7D<7H<8S<8C<8D<8H<9D<9H<ミゼール<10S<10C<10D<10H
6Sはシックス・スペード、6Cはシックス・クラブ、6Dはシックス・ダイアモンド、6Hはシックス・ハートでいずれもそのスートを切札にして6トリック以上取るというコントラクトです。以下同様。
ミゼールは、切札なしで1トリックも取らないというコントラクトです。
ディーラーの左隣のプレイヤーからビッドを始め、時計回りにビッドを行ないます。最初にビッドをするプレイヤーはどのビッドでも行なえますが、次からは前のビッドより強いビッドを行なわなければなりません。
ビッドをしたくなければパスを宣言します。一度パスをすると、もうビッドをすることはできません。3人続けてパスをすると、後で述べる「ラスパシ」のプレイを行ないます。それ以外の場合で、2人パスをするとビッドが決まり、最後にビッドしたプレイヤーがデクレアラーになります。(デクレアラーはあとでコントラクトの種類を、より強いものになら、変えることができます。)
ディーラーの左隣のプレイヤーは、配られた自分の手札を見なければ、最初のビッドの機会に「見ず出」を宣言することができます。「見ず出」は6Sと同じ価値のビッドなのですが、他のプレイヤーがオーバービッドをするためには、7C以上のビッドをしなければなりません。オーバービッドがあれば、以降は通常通りにビッドを進めます。
ビッドのあと、デクレアラーはタロンの2枚のカードを表向きにして全員に見せます。
そのあと、その2枚を手札に加えてから、12枚となった手札のうちから自由に2枚を捨て札します。捨て札は裏向きにしておきます。
手札の交換のあと、デクレアラーは改めてプレイするコントラクトを宣言します。
宣言するコントラクトは、ビッドしたコントラクトかそれより強いコントラクトであれば、何でもかまいません。スートが違っていてもOKです。ミゼールより弱いビッドをしていたなら、ミゼールを宣言することも自由です。
ビッドのときには、ノートランプのコントラクトはビッドできませんが、今回はノートランプのコントラクトを宣言することもできます。ノートランプは同じトリック数のコントラクトの中で最も強いコントラクトとなります。(ノートランプとは切札なしでプレイすることです。)
コントラクトの宣言が終わると、ディフェンダーは、デクレアラーの左隣から順に、プレイする(出る)かパスする(降りる)かを宣言していきます。
両方のディフェンダーがパスをすると、実際のプレイは行われず、コントラクトは成功したことになります。
どちらか1人でもプレイの宣言をすると、実際のプレイが行われます。しかし、プレイの宣言をしたプレイヤーと、パスの宣言をしたプレイヤーでは得点が違ってきます。
1人がプレイの宣言をして、もう1人がパスの宣言をした場合には、プレイの宣言をしたプレイヤーは「ガバナー」と呼ばれます。
ガバナーはパートナーの手札をさらして(ブリッジのダミーと同じように、全員がよく見えるようにして)プレイすることもできます。これをするかどうかは、最初のリードが行われる前に決めなければなりません。ただし、デクレアラーがリードをする場合には、デクレアラーのリードのあとに決めても(さらしても)かまいません。この場合のガバナーは、パートナーの手札については相談してプレイすることができますが、最終決定権はガバナーにあります。
ディーラーの左隣のプレイヤーが最初のリードを行ないます。
プレイヤーはリードされたスートをフォローしなければなりません。フォローできないときには、切札を出さなければなりません。切札もないときにはどのカードを出してもかまいません。
ドイツルールのように、勝てるカードがあるときにはそれを出さなければならないというようなルールはありません。
切札が出ているときには、最も強い切札を出したプレイヤーがトリックに勝ちます。そうでないときには、リードされたスートで最も強いカードを出したプレイヤーがトリックに勝ちます。勝ったプレイヤーが次のリードを行ないます。
ミゼールの場合には、手札の交換の時に、タロンのカードだけでなくデクレアラーの手札も全員に見せます。
ただし、そのあと12枚の手札を見せないようにしてから、2枚のカードを捨て札します。つまり、捨て札が何であるかは分からないので、手札の内容も正確にはディフェンダーには分かりません。
ディフェンダーは見せられた手札とタロンの内容を紙にメモすることもできます。
ミゼールのあとはディーラーは交替しません。
最初のトリックのリードの前に、全プレイヤーが手札をテーブルにさらします。
ディフェンダーはプレイのときに相談しあってもかまいません。
プレイヤー3人全員がビッドのときにパスをした場合、ラスパシのプレイを行ないます
ラスパシにおける各プレイヤーの目的はできるだけトリックを取らないことです。切札はありません。
最初のリードは通常通りディーラーの左隣のプレイヤーが行ないますが、リードの前にタロンの一番上のカードを表向きにします。リードはこの表向きになったカードと同じスートのカードで行なわなければなりません。(同じスートのカードを持っていない場合についてはパーレットの本には記されていません。とりあえず、そういう場合にはどのカードをリードしてもよいということにしておきたいと思います。)
2回目のリードは通常通り最初のトリックに勝ったプレイヤーが行ないますが、やはりその前にタロンの残ったカードを表向きにします。リードはこの表向きのカードと同じスートで行ないます。
3回目のリードからは通常と同じプレイになります。
タロンのカードはリードすべきスートを表示する以外の働きはありません。
ラスパシのプレイのあとにはディーラーは交替しません。
それぞれのコントラクトには固有の点数があります。これをゲームバリューと呼んでおきます。ゲームバリューは次の通りです:
シックス(6S、6C、6D、6H、6NT) | 2点 |
セブン(7S、7C、7D、7H、7NT) | 4点 |
エイト(8S、8C、8D、8H、8NT) | 6点 |
ナイン(9S、9C、9D、9H、9NT) | 8点 |
ミゼール | 10点 |
テン(10S、10C、10D、10H、10NT) | 10点 |
シックス、セブン、エイトのコントラクトの時には、プレイが行われたら、ディフェンダーの2人は合わせて少なくとも4トリック、2トリック、1トリックを取らなければなりません。これを「パートナー最低トリック数」と呼びます。
パートナー最低トリック数を達成できない場合には、ディフェンダーの各プレイヤーは自分だけでも「プレイヤー最低トリック数」を取る必要があります。プレイヤー最低トリック数はシックス、セブン、エイトのコントラクトに対して、2トリック、1トリック、1トリックです。これも達成できないとペナルティーの点数がつきます。
パートナー最低トリック数またはプレイヤー最低トリック数を達成したら、ボーナス点があります。
このペナルティーやボーナスは、プレイを宣言しているプレイヤーにのみ関係します。
表にすると次の通りです
コントラクト | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
パートナー最低トリック数 | 4 | 2 | 1 | なし | なし |
プレイヤー最低トリック数 | 2 | 1 | 1 | なし | なし |
「ラスパシ」以外のゲームについては、次のように得点が行われます。
1)コントラクトが達成されると、デクレアラーのプールの欄にコントラクトのゲームバリューがそのまま記入されます。
2)コントラクトが失敗ならば、コントラクトに足りなかった(ダウンした)トリック数にゲームバリューにを掛けたものが、デクレアラーのスコアシートのホールの欄に記入されます(ミゼールの場合は取ったトリック数にゲームバリューを掛けます)。さらに、プレイを宣言したディフェンダーのスコアシートのサイドの欄のデクレアラーの所に、これと同じ点数が記入されます(これをコンソレーションと呼びます)。
3)これに加えて、最低トリック数のあるコントラクトの場合には次の点数がつきます。
3.1)パートナー最低トリック数が達成されたら、ディフェンダーの各プレイヤーは、自分の取ったトリック数にゲームバリューを掛けたものを、自分のスコアシートのサイドの欄のデクレアラーの所に記入します。プレイを宣言しているプレイヤーが1人の場合には、そのプレイヤーだけが、ディフェンダー2人の取ったトリック数にゲームバリューを掛けたものを記入します。(コントラクトが失敗の場合にはコンソレーションの点数に加えてこれを行います)。
3.2)パートナー最低トリック数が達成されなかった場合には、次の点数がつきます。
3.2.1)ディフェンダーの2人が両方ともプレイの宣言をしている場合、プレイヤー最低トリック数を取れなかったプレイヤーについては、デクレアラーが、プレイヤー最低トリック数に足りないトリック数にゲームバリューを掛けたものを、自分のスコアシートのサイドの欄のそのプレイヤーの所に記入します。プレイヤー最低トリック数かそれ以上のトリックを取れたプレイヤーは、プレイヤー最低トリック数にゲームバリューを掛けたものを、自分のスコアシートのサイドの欄のデクレアラーの所に記入します(この場合は、取ったトリック数にゲームバリューを掛けるのではありません)。
3.2.2)ディフェンダーの1人だけがプレイの宣言をしている場合、デクレアラーは、パートナー最低トリック数に足りないトリック数にゲームバリューを掛けたものを、自分のスコアシートのサイドの欄のそのプレイヤーの所に記入します。
なお、プールの欄の点数のつけ方については前に述べた「アメリカの援助」の規則が適用されます。
ラスパシのプレイを行なったときには、各プレイヤーは、自分の取った1トリックにつき1点を、自分のスコアシートのホールの欄に記入します。
続けて2回ラスパシのプレイがあった場合には、2回目には1トリックにつき2点をホールに記入します。同様に、続けて3回目には3点、4回目には4点というように、いつまでも増えていきます。(これは、続けてラスパシが行われた場合だけです。)
既に述べているように、全員のスコアシートのプールの欄がターゲットスコアに達したら、ゲームは終了します。